1 発達障害とは

発達障害は、先天的な脳の機能発達の偏りによって、コミュニケーションや対人関係など、日常生活に困難が生じる状態です。
生まれ持った脳の特性によるものなので、親の育て方の問題で発症するわけではありません。以前は、知的障害を伴い、幼少期に診断されるものと考えられていましたが、現在は知的障害を伴わない場合も多いことが分かっています。
そうした場合には、例えばコミュニケーションが苦手であっても勉強ができるなど、なんとか環境に適応することができて、子どものうちには発達障害が顕在化しないことが多くあります。しかし大人になって、より高度で複雑なコミュニケーションが要求されるようになると困難を抱える場面が出てきて、そこで初めて発達障害と診断されるのです。

①発達障害の種類

発達障害は行動や認知の特徴(「特性」)によって、主に次の3つに分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
コミュニケーションおよび相互関係の障害
人の気持ちを理解するのが苦手、冗談や比喩が理解できない、興味のあることを一方的に話し続けてしまう、非言語的なサイン(表情・目配せなど)を読み取るのが困難 など
同一性へのこだわりや興味・関心の狭さ
日課・習慣の変化や予定の変更に弱い、特定の物事に強いこだわりがあるなど
その他の特性
聴覚・視覚・触覚など感覚の過敏性を伴うこともある

ADHD(注意欠如・多動症)
不注意
物をなくすことや忘れ物が多い、人の話を一定時間集中して聞けないなど
衝動性
予測や考えなしに行動してしまう、相手の話を待てないなど
多動
じっとしていられない、動き回る、しゃべりすぎるなど

LD(学習障害)
「読む」「書く」「計算する」などの特定の分野の学習だけが極端に困難

大人の発達障害の特徴

大人の場合、診断されるまでの長期にわたって、周囲の環境にうまく適応できず、失敗を重ねて過ごしてきていることが多いため、自己評価が下がり、二次的にうつや不安障害などの精神疾患を発症するリスクも高いと考えられます。そうなる前に早めに対処していくことが望ましいでしょう。

発達障害の特徴の表れ方には男女差があります。ASDの場合、男性は分かりやすいことが多いですが、女性の場合は対人関係の問題が表に出にくく、ASDがあっても気づかれにくいことがあります。とはいえ、本人が苦痛を抱えていないわけではなく、女性のASDでは男性よりも多くの精神疾患を伴う可能性が指摘されています。

ADHDの場合、男性は多動・衝動症状が優勢になることが多いですが、その場合は幼少期からその特徴が表れて早い段階で診断されることが多くなっています。大人になって初めてADHDと診断される人は、男女とも不注意の症状が目立つ傾向にあります。大人の場合、不注意によって仕事に影響が出てしまうことが多く、それで初めて発達障害に気づくのです。

実際には、ADHDの診断がつく人でも、ASDの特性を併せ持って両方の診断基準を満たす場合もあるなど、症状も困りごとも一人ひとり異なります。大事なのは診断名のレッテルを貼って型にはめてしまうことではなく、診断によって抱えている悩みの理由を知り、困りごとに対処して生きづらさを減らすことです。

③発達障害の診断と治療

■診断
発達障害の診断は、ASD、ADHDなど、診断名ごとにそれぞれ国際的な診断基準があり、精神科医が相談者との面談や検査を行いながら、時間をかけて総合的に判断します。他の病気の診断と大きく違うのは、子どもの頃からの生育歴が重要ということです。発達障害の特性は子どもの頃から存在しているものなので、現在の症状や困難さが子どもの頃の特性とどのように結びついているかを見極める必要があります。子どもの頃の成長の記録や証言があれば、用意していくといいでしょう。

■治療
治療については、主に薬物療法と生活療法の二つがあります。
薬物療法では最近、ADHDの症状を緩和させる効果のある薬が成人にも適応されました。またうつ病など二次障害で陥りがちな症状への治療としても、よく行われています。
生活療法ではデイケアがあります。そこでは、障害について理解を深めることを目的とした心理教育や、コミュニケーションの向上を目的としたSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)などが行われています。しかし、発達障害に特化したプログラムを有しているデイケアは少ないのが現状です。

2 発達障害で障害年金を請求する

発達障害の障害年金認定基準

(1) 発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものをいう。

(2) 発達障害については、たとえ知能指数が高くても社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受けることに着目して認定を行う
また、発達障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。

(3) 発達障害は、通常低年齢で発症する疾患であるが、知的障害を伴わない者が発達障害の症状により、初めて受診した日が20 歳以降であった場合は、当該受診日を初診日とする。

(4) 各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりである。

(5) 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。

(6) 就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず、雇用契約により一般就労をしている者であっても、援助や配慮のもとで労働に従事している。
したがって、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との
意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断
すること。

精神の障害に係る等級判定ガイドライン

精神障害や知的障害の認定に不公平が生じないよう「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」が定められています。
精神障害や知的障害の障害年金認定において、上記の認定基準に基づいて適正に行われるように、障害等級の判定時に用いる目安や考慮すべきことの例が示されています。

ガイドラインについては、こちらをご覧ください。
精神の障害に係る等級判定ガイドライン(厚生労働省)

障害年金の請求で診断書などの提出書類に記載したほうがいいこと

診断書などの提出書類により、上記の認定基準・ガイドラインに基づき審査されます
診断書などの提出書類により、障害年金に該当するかの審査が行われますので、社会性・コミュニケーション能力の障害、社会行動の不適応、日常生活の困難さなどの事実が診断書などに記載されていないと、障害年金を審査する審査医に伝わりません
また、診断書を記載する主治医に伝わっていないと診断書に記載されないため、日常生活の困難さなどを主治医に伝えておくことも必要です。
どのようなことの記載が必要でしょうか。

■現在の病状又は状態
対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないなどのコミュニケーション能力の障害日常生活に制限が生じる臭気、光、音、気温などの感覚過敏日常生活に制限が生じ強いこだわりなど

■療養状況
通院の状況(頻度、治療内容など)、薬物治療を行っている場合は、その目的や内容(種類・量(記載があれば血中濃度)・期間)、服薬状況。通院や薬物治療が困難又は不可能である場合は、その理由や他の治療の有無及びその内容。
著しい不適応行動を伴う場合や、うつ病などの精神疾患が併存している場合は、その療養状況。

■生活環境
ひとりで生活できるのか、援助がないと生活できないのかを判断するため、同居の家族・入所施設の援助、福祉サービスの有無、程度。同居の家族がいると援助しているという感覚があまりないこともあるでしょうが、単身で生活するとしたときに必要となる支援の状況を記載する必要があります。
ひとり暮らしをしている場合には、ただ単に「ひとり暮らし」をしているだけの記載ですと、援助なく、ひとりで生活できていると見えてしまうので、なぜひとり暮らしをしているのか(例えば、音、気温などの過敏症状があるため、人と生活するのが困難なために、やむを得ずひとり暮らしをしているとか)、受けている援助の状況(近くに住んでいる家族が、食事、掃除等の援助を毎日行っているとか)を記載します。

■就労状況
「現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断」と精神の障害に係る等級判定ガイドラインに記載されてます。
そのため、
・仕事の内容が専ら単純かつ反復的な業務であるか
・就労系障害福祉サービス(就労継続支援A型、就労継続支援B型)及び障害者雇用制度による就労であるか
・一般企業での一般雇用であっても、就労系障害福祉サービスや障害者雇用制度における支援と同程度の援助を受けているか
・執着が強く、臨機応変な対応が困難であることなどにより、常時の管理・指導が必要であるか
・他の従業員との意思疎通が困難で、かつ不適切な行動がみられることなどにより、常時の管理・指導が必要であるか
など、特性を考慮した特別な配慮・援助・管理指導があれば記載します。

■その他
・発育・養育歴、教育歴、専門機関による発達支援、発達障害自立訓練等の支援
・知的障害を伴う発達障害の場合、発達障害の症状も勘案して療育手帳
・社会的行動や意思疎通能力の障害が顕著
・青年期以降に判明した発達障害については、幼少期の状況、特別支援教育またはそれに相当する支援の教育歴

④その他、障害年金の請求で気を付けること

■発達障害での初診日
先天的な病気等の場合は、障害年金における初診日は、通常生まれた日となります。
発達障害も先天的な脳の機能発達の偏りによるものですが、その障害が幼少期には気付かれないことが多いことも踏まえて、知的障害を伴わない者が発達障害の症状により、初めて受診した日が、障害年金の初診日となります。

※20歳以降に初めて受診した場合は、20歳以降の年金の納付が障害年金受給の要件となっていますので、納付もしくは免除(学生納付特例等含む)の手続きは、とても大切です。

■病歴就労状況等申立書
病歴就労状況等申立書は、発病してからの病状であったり日常生活・就労状況等を記載します。
初診日は、初めて受診した日となりますが、発病日は「生まれた日」となるため、生まれてからの状況、日常生活・就労状況や発育・養育歴、学校での同級生との関わりや様子、特別支援教育などの有無なども記載します。

葛飾区での障害年金の相談は年金のプロ、社会保険労務士高橋直樹事務所まで

障害年金の請求に、ご不明な点、ご心配なことがございましたら、葛飾区の京成高砂駅近くにある「社会保険労務士高橋直樹事務所」まで、ご相談ください。
相談初回は無料でご相談に応じておりますので、お気軽にご相談ください。